琉球びんがたの魅力は、沖縄らしいおおらかな表現と手仕事のこまやかさ
2021年11月5日
    
Person
三浦敦子さん
琉球びんがた工房ちゅらり
琉球びんがた作家。岐⾩県出⾝。沖縄在住。琉球びんがた後継者育成事業修了後、やふそ琉球びんがた⼯房にて修⾏、屋冨祖幸⼦⽒に師事。2017 年に琉球びんがた⼯房ちゅらりを設⽴。沖縄県⼯芸公募展⼊選、りゅうぎん琉球びんがたデザインコンテスト奨励賞。2019 年には、新ブランドモノトーンびんがた「CREW」を発表

伝統工芸の若手作家が見つめる、琉球びんがたの未来について

琉球びんがたは、沖縄代表する工芸のひとつです。琉球王朝時代から続く伝統を継承するものから、漫画など現代の表現をモチーフとしたものなど、琉球びんがたには多様な表現があります。今回は、琉球びんがたの若手作家である三浦さんにインタビューをし、若手作家から見た、琉球びんがたの「いま」をお伝えします。


「ちゅらり」という言葉に込めた、びんがた作家としての想い

私の作品は、沖縄の風景や動植物がモチーフになることが多く、作品の中に物語を表現したいと思っています。染布を手にした時に、その物語でフッと笑顔になってくれることを想像しながら作っていますね。

工房名「ちゅらり」は、沖縄の方言で、美しいモノやコトを表現する「ちゅら」と、上品な華やかさを表現する「はんなり」の造語で、そのような作品を作っていきたいという想いがこめられています。

酔っ払いの木の根元で、寝転ぶ猫をユーモラスに描く

こちらは「宴 トックリキワタとほろ酔い猫」という作品です。沖縄では、公園や街路樹で見かける高木で、とても綺麗なピンクの花を咲かせるのですが幹がポッコリしていて酔っぱらいのおなかのように見えることから別名「酔っぱらいの木」と呼ばれています。

そんな木の根元で寝転ぶ猫をみて花の美しさに酔ったのか、それとも古酒でも吞んだかなと想像した世界を表現しました。木の幹のポッコリを古典文様の立涌で上品に表現しつつユーモラスな酔っぱらい猫たちの様子を染めました。

お召しになったお客様が、この帯をきっかけに話に花が咲くといいなと思っています。

絶滅危惧種をテーマに、脈々とつながる命の流れを表現

「キングダム」は、九州沖縄の絶滅危惧種をテーマにした作品です。

中央のガジュマルは精霊が宿る木とされ自然界を強く優しく見守り、動物たちの間を流れる黄金(くがに)の川は脈々と繋がる命の流れを表現しました。動植物そして私たち人間も含め、先人があって現在やその先の未来へつながっている有難さや大切さを作品に込めました。

技法として、びんがたで金を彩色することは珍しいのですが、いろんな表現に挑戦していきたいと思います。

沖縄には、琉球びんがたを学ぶきっかけと環境がある

ー三浦さんが、びんがた作家になったきっかけをぜひ教えてください

わたしは岐阜県出身で、実家では古美術商を営んでいました。そのため、幼少期から、日本の伝統や美術に触れる機会が大変多く、膠や刷毛など日本画の道具が、日常生活の中に馴染んでいて、それらの道具を持ち出して怒られたのを覚えています。

伝統美術に日常的に触れていた幼少期の体験が、琉球びんがたの工芸作家になる動機につながったと思っています。
漠然と「ものつくりに携わりたい」とずっと思っていましたが、子供が生まれたことをきっかけに働き方を見直す機会があり、一番惹かれた琉球びんがた職人を目指すようになりました。

ー三浦さんは岐阜県出身ですが、県外からどのような経緯で琉球びんがたを学ぶようになったのですか?

はじめは転勤で沖縄へやってきました。当初は体験教室へ行きましたが、全ての工程に関わりたいと強く思うようになり、紅型教室に通い始めました。琉球びんがたに向き合うほど、より深く知りたい、日々染めたいという思いが強まり、教室2箇所に通っていた時期もあります。

そんな時、琉球びんがた後継者育成事業で未来の職人を育成していることを知り迷わず応募し、課程を修了しました。その後は、やふそ紅型工房に入り屋冨祖幸子氏に師事しました。

ー最初は体験入学からはじまり、自ら琉球びんがたを学ぶための機会をみつけていった行動力がすごいなと思いました。

沖縄では琉球びんがたに触れる機会が多いので、琉球びんがたを学ぶきっかけがつくりやすかったからだと思います。また、琉球びんがた後継者育成事業は職人になる入口として適していると思うので、いずれ仕事としてびんがたに携わりたい方にはお勧めです。

琉球びんがたは、職人ひとりですべての工程に携われるところが魅力

ー三浦さんの思う、琉球びんがたの魅力についてあらためて教えてください

初めて美術館で古典紅型を見たときに、色の深みと数百年経ても色あせない色彩に魅了されました。琉球びんがたは主に顔料を使用して染めます。顔料は日光堅牢度が高く鉱物からつくられているので粒子の色がそのまま布上に残り発色がいいのが特徴です。沖縄の強い日差しにも負けない染の技法は、故に長く受け継がれてきたのかと思うとロマンを感じます。

また、柔軟でおおらかなデザインも琉球びんがたの魅力だと思います。
異国のデザインや本土のモチーフもいいものはどんどん取り入れ、発展させ、自分たちのデザインに昇華させていく姿勢がとても柔軟に感じます。デザインの中に季節的なルールもありませんし、年間を通じて温暖な沖縄ならではのおおらかさだと思います。

現在、職人が、一人で全ての工程を行うことが多く、作家性がより強く出せるようになったのも大変魅力に感じます。デッサンして、型紙を彫って、染めて仕上げるので、デザインの時点からどのように染めようか想像しながら落とし込むことが出来るのです。

琉球びんがたはすべてが手仕事なので、機械のように完璧に同じものを作ることが出来ません。だからこそ前よりもっと綺麗にもっと上等に染まりますようにと願いつつ仕事に向き合うことが出来る気がします。

手仕事による柔らかでおおらかな沖縄らしい表現が琉球びんがたの魅力にもつながっていると思います。

日常に取り入れて欲しい、モノトーンびんがたによる新しい試み

作家としての活動状況を教えてください

仕事のメインは呉服関連で、主に帯を染めています。着物をお召しになる方にはなじみがある「紅型」も、若い世代や着物に興味がないかたには知られていないのが現状です。より幅広い方に琉球びんがたを知って欲しいという思いから[モノトーンびんがたCREW]というブランドを立ち上げました。

ちなみに沖縄の方言で黒のことを「くるー」といいます。びんがたの特徴といえば、華やかな色彩が一般的だと思います。ただ、日常の普段使いを考えると、モノトーンの方が取り入れやすいのではと発想しました。

新ブランドモノトーンびんがた「CREW」についてぜひ、教えてください

自分が欲しいもの、こだわり、求められる機能を満たす製品作りを心掛けています。
いいなと思って手に取ったら、琉球びんがたという染め物だったというのが理想です。

このブランドは黒の顔料にこだわって染めています。ひとえに「黒」といえど青みが出る黒、赤みが出る黒、強く黒く発色する黒など個性があります。数種の黒顔料を使い分けて胡粉を混ぜてつくる灰色に奥行が生まれるように色を作っています。

CREWでは様々な商品展開をしているのですが、紅型は手染めにこだわり、革は自分でカットし金具一つとっても全て自分で仕入れています。縫製は信頼できる職人さんにお任せして大量生産はできないけれど、自信をもって送り出せるブランド作りに取り組んでいます。

お取り扱いは沖縄では県立博物館美術館、大型商業施設などでのお取り扱いになります。オンラインショップもありますので、是非のぞいてみてください。

びんがた工房を運営するために、職人であると同時に、
経営者としての知識も必要なのだと気付かされた

ーブランドを立ち上げるにあたり、もし、アドバイスがありましたら教えてください。工芸は量産できないので、ビジネスとして確立するには苦労も伴うとうかがっています。

職人は、どうしても作品を作ることに時間を費やすので、経営となると自身も含めて得意ではありません。
ただ、不得意とも言っていられないので、沖縄県が主催する「工芸価値創造塾」(※現在は受付しておりません)「沖縄県工芸製品新ニーズモデル創出事業」という2プログラムを修了しました。

びんがた工房を運営するにあたり、自分で5か年計画を立てたり、原価計算やブランドの立ち上げ方等を学びました。正直なところ、プログラムで身についたのはほんの一部で、まだまだ努力と勉強が必要ですが、良いきっかけになりました。びんがた工房を運営するにあたり、職人であると同時に、経営者感覚を持たないといけないことにあらためて気づかされました。

ー今後チャレンジしたいことがあれば教えてください

人と関わることが好きなので、教室をもちたいと思っています。びんがた教室に通い始めたのが、職人になる入口だったように、誰かの人生を彩るきっかけになれたら素敵だなと思います。

2022年5月には、那覇市首里に琉球びんがた組合+首里織組合+株式会社suikaraの共同経営となる複合施設「首里染織館 suikara」がオープンします。より幅広い世代に気軽に足を運んでいただける場所になるよう、組合員として協力していきたいと思います。

現代のライフスタイルに対応し、ひとりでも多くの人たちに琉球びんがた届けていきたい

ー琉球びんがたの未来へむけたイメージなどはありますか?

琉球びんがたを、もっと多くの方に知って欲しいと思います。
呉服に興味がある方には、知られている紅型をもっといろいろな世代や、価値観の方にも認知していただけるようにすることが、課題だとおもっています。その為にも、様々な業種とのコラボレーションや、現代のライフスタイルに柔軟に対応した、商品展開が出来ればと思います。

沖縄は、伝統工芸の宝庫です。亜熱帯の自然や、琉球王朝に育まれた文化が息づき、日本の中でも独自の個性がひかります。その環境で、先人たちから受け継がれている伝統工芸に、県外出身の私が携われている事にとても感謝している反面、身が引き締まる思いでいます。これからも、紅型の魅力を微力ながら発信し更なる発展に、貢献していきたいと思っています。


【インタビュー後記】

インタビューを通じて、琉球びんがたの魅力が、大変よく伝わってきました。一方で、工房を継続するためには、びんがた職人であると同時に経営者でなくてはいけないという気づきがあったこと、ブランドの立ち上げ方などを学ぶために沖縄県のプログラムを利用したことなど、現代の工芸作家としての在り方が、大変興味深かったです。本日はありがとうございました。


【琉球びんがたについて】

13 世紀頃より存在する沖縄を代表する伝統的な染色技法。紅は色を、型は模様の意味です。琉球王国時代は、王族や士族の衣装として染められていた高級品でした。南国の沖縄らしい華やかな色彩が特徴的で、植物や貝殻など、天然染料が使われていました。

Person
三浦敦子さん
琉球びんがた工房ちゅらり
琉球びんがた作家。岐⾩県出⾝。沖縄在住。琉球びんがた後継者育成事業修了後、やふそ琉球びんがた⼯房にて修⾏、屋冨祖幸⼦⽒に師事。2017 年に琉球びんがた⼯房ちゅらりを設⽴。沖縄県⼯芸公募展⼊選、りゅうぎん琉球びんがたデザインコンテスト奨励賞。2019 年には、新ブランドモノトーンびんがた「CREW」を発表