琉球王国の美意識を映し、伝える。琉球古典芸能の伝承者ご夫妻に聞く
2021年11月5日
  
Person
よなは徹・真境名由佳子
琉球古典芸能伝承者 よなは徹さん/沖縄県北谷町に生まれた、琉球古典音楽・島うた界における斬新な歌者。数多くの賞を受賞した琉球古典音楽の師範として、更に国指定重要無形文化財「組踊」の伝承者として活躍する。 真境名由佳子さん/琉球舞踊真踊流二代目。2018 年文化庁芸術祭舞踊部門新人賞、2020 年国立劇場沖縄主催第 9 回創作舞踊大賞奨励賞受賞。
Story
1.琉球舞踊について
2.琉球古典音楽について
3.これからのご活動について
4.イベント概要「琉球の薫り」

450年続いた琉球王国。琉球文化の中で、音楽と舞踊は重要な役割を果たしてきました。 琉球古典音楽家であり島うたの歌者として沖縄音楽界を支える一人であるよなは徹(よなはとおる)さん、琉球舞踊真踊流(しんようりゅう)二代目の真境名由佳子(まじきなゆかこ)さん、それぞれ第一人者としてご活躍されているご夫妻に、琉球古典音楽、琉球舞踊について、また伝統芸能を現代に継承し、次世代に伝承されていくためのご活動についてお話を伺いました。

お話を伺ったのは、琉球王朝時代から300年以上の長い歴史をもつ、琉球びんがた三宗家の一つ「城間びんがた工房」内「ArtiZan Gallery」

琉球舞踊について、真境名由佳子さんにお伺いしました

琉球舞踊は、王朝時代に中国の冊封使を歓待する御冠船踊りから始まり、廃藩後は、大衆に親しまれる芸能となりました。 王朝時代の古典舞踊については、大城學先生(沖縄教育庁文化課主幹)がわかりやすく解説されていますので、お話を引用させて頂きます。

古典舞踊とは
琉球王府は、冊封使(さっぽうし)を歓待する芸能公演のために「踊奉行」(おどりぶぎょう)を設けた。踊奉行は、踊り(芸能)公演を開催するにあたり、その指導監督あるいは芸術の指導をする奉行のことである。奉行にあたる彼らは、数多くの舞踊や演劇を仕立てた。

王府の主催する冊封使歓待の宴は7回催され、「七宴」(しちえん)と称している。七宴での芸能を総称して「冠船踊」(かんせんおどり)あるいは「御冠船踊」(おかんせんおどり)という。いうまでもなく、冠船に乗って渡来した冊封使たちをもてなすための芸能の意味である。御冠船踊は、廃藩置県の後(明治の中期以降)に創作された「雑踊」(ぞうおどり)に対して「古典舞踊」(こてんぶよう)と称する。古典舞踊は18世紀に大成した。踊奉行に任命された玉城朝薫(たまぐすくちょうくん/1684~1734)たちによって基礎が固められ、その後の優れた芸術家たちによって肉付けされ、磨きあげられていったのである。古典舞踊は老人踊(ろうじんおどり)、若衆踊(わかしゅおどり)、二才踊(にさいおどり)、女踊(おんなおどり)に分類される。

琉球舞踊は廃藩後に大衆に親しまれる芸能となりましたが、琉球王国時代の御冠船踊りに続く古典舞踊、古典音楽の衰退を憂え再興に向け一部の知識階級の人たちは、王府の御冠船踊りの芸統を学び近代琉球舞踊を招いた巨匠、玉城盛重(たまぐすくせいじゅう)師を中心に集まり、家庭子女の学びとしての芸能の普及を始めました。

その玉城盛重師に師事を受け琉球王国の芸統の継承を志したのが私の所属する真踊流(しんようりゅう)の創流者であり祖母の真境名佳子です。真境名佳子の教えから、「琉球舞踊は、厳しさです。伝統舞踊の美しさと品格は、そこから生まれる。」その佳子の1番弟子で私の師匠である宮城幸子先生が、2021年の重要無形文化財保持者人間国宝に認定されました。また宮城先生からも「琉球舞踊は、厳しい。自分自身と歩み、忘れてはいけない」と言われています。

元々は首里城内で男性によって行われていた琉球古典芸能の伝統を、女性が受け継ぐことの厳しさとは。私は、その教えの厳しさがようやく解り始めたところです。

ですので、今の私の思う琉球舞踊とは、琉球王国から受け継ぐ知識と美意識。そして自分を知る手立てだと。壮大な琉球舞踊の歴史の入り口からほんの少し見えました。

琉球古典音楽について、よなは徹さんにお伺いしました

琉球古典音楽は琉球舞踊以前からありますが、古典音楽の起こりは17世紀頃で、湛水親方(たんすいうぇーかた)という方の流れから今に続いていると言われています。

三線自体が入ってきたのは15世紀後半と言われていますが、その時は士族の音楽でしたので、一般庶民のところには三線音楽は伝わっていなく、各地方や地域で手拍子や農具をたたいて歌うというのが一般的だったようで、三線自体は首里の、またごく一部の音楽だったと言われています。

三線は、それからちょうど400年位前に堺港から本土に伝わって、三味線になり、それが北上して太棹の津軽三味線になっていったようです。

僕は伝承者ということなのですが、僕の歌や音楽を聴いて三線をやりたいと思う人が増えてくれれば、そんなきっかけになることができたらと思って、稽古をしています。

また、僕らの音楽は沖縄の言葉で演奏し、表現するものなのですが、僕らより下の世代は沖縄の言葉を話せなくなっています。僕は幸いなことに、今完全に沖縄の言葉だけのラジオ番組もやらせて頂いていて、実際に先輩方から沖縄の言葉を聞くことができるので、 一つでも多く吸収して、後輩たちに、また後世に伝えることができたらと思っています。


これからのご活動について

「琉球の薫り」真境名由佳子さんにお伺いしました

私達の新しい表現のひとつとして、「琉球の薫り」という、琉球古典音楽・琉球舞踊・薫物(お香)を同時に体験するイベントにチャレンジしています。共演するのは、琉球古典音楽は夫で琉球古典音楽家のよなは徹、お香は香研究家の渡辺えり代先生です。

今年の春頃Facebookで香研究家の渡辺先生の聞香会が沖縄であることを知り、夫と一緒に参加したのですが、そこで体験した香りの素晴らしさに夫婦ともに感動しました。

元々香りのするものが好きでしたし、お香の香りも知っていましたが、渡辺先生のお香では、深く鮮やかな自然の香りが火を焼べたお香の煙とともに香り、それは今迄体験したことがないもので、本当に驚きました。渡辺先生のイマジネーションという言葉に私は必然的に舞踊を思い、この香りにのせて踊りたい、音楽にのるように香りにのって踊りたいという思いが湧きました。

渡辺先生が琉球王国の首里城内の香りのことを調べられるのにお供して、沖縄県立博物館や首里城、沖縄県南部にある御嶽(うたき)などを巡りました。そこで今迄とは違う方向からみる琉球の歴史に私自身が学び、それを多くの人にも知って頂きたいと思ったのが「琉球の薫り」の企画のきっかけとなりました。

今迄とは違う方向からみる琉球王国の歴史から感じたことは、美学、美意識の高さです。

琉球のお香との関わりの歴史をみると、何百年も昔から今でも通じる洗練された感性を 持った美意識の高い琉球王。意識を強くもち自身を抑制し磨き上げた存在は、今の沖縄の美しい伝統芸能や工芸に大きな影響を与えたことと思います。

王の執務室であった書院ではお香が焚かれていたと歴史資料にありました。香りの持つ力が王の五感を高め、豊かな感性に導いたのではと、今までと違う見方がこれまで見えていたものに重なり、想像が現実と立体的に重なるように感じられました。「琉球の薫り」で、17世紀後半から18世紀にかけ朱漆の首里城の豊かで美しい琉球王国の時を香りと芸能から想像し、沖縄の豊かさを感じて欲しいと思います。


イベント概要「琉球の薫り」

~琉球古典音楽・琉球舞踊・薫物(お香)の共演~

琉球王朝時代の薫物が、歴史的資料をもとに制作され、現代に蘇りました。18世紀の首里城の書院をイメージした舞台で、琉球古典音楽と琉球舞踊とのコラボレーションにより、いにしえの世界観を作り出します。非日常的な空間で、嗅覚・聴覚・視覚を刺激して、より立体的な琉球文化のイメージを想像しながら、心豊かな時間をお過ごし頂ければ幸いです。

~趣旨~
・感覚を研ぎ澄ませて舞踊・音楽・香りを同時に体験することで、時空を超えた旅を楽しみ、想像の翼を広げて感性を磨いて頂く
・一流の芸術に触れて感動を味わい、審美眼を育くむ。特に琉球王国の大交易時代の交易品であった沈香・白檀・龍涎香など、貴重な香材を使って創作したお香の香りをリアルに体感して、本質を見抜く力・直感力を養う。
・舞踊とお香は祀に用いられていたので、感謝と祈りがもつ力について知る。

「琉球の薫り」 ~18世紀の首里城「書院」へようこそ~

■日時:2021年11月13日(土) 
①琉球の薫り 13:30-16:00
②祥香作り  16:30-17:30
■会場:
ArtiZan Gallery(城間びんがた工房内) 沖縄県那覇市首里山川町1丁目113
■演目:
古典舞踊「天川」  (創作お香 首里城) 
古典音楽      (創作お香 アマミキヨ)
創作舞踊「稲まじん」(創作お香 ニライカナイ)
■参加費:
①琉球の薫り      13,000円(定員15名) 
②祥香づくり(オプション)11,000円(定員6名)
■ご予約:070-3800-0470 eriyo@arts-wellcome.com
■出演者:よなは徹・真境名由佳子・渡辺えり代
■共催:つる語るプロジェクト・香研究会IRI
■資料提供:沖縄県立博物館・那覇市歴史博物館
※2022年に東京で同イベントの開催を予定しています。

「琉球の薫り」 出演者プロフィール

よなは 徹(Toru  Yonaha)琉球古典音楽家
沖縄県北谷町に生まれ。琉球古典音楽・島うた界における斬新な歌者。数多くの賞を受賞した琉球古典音楽の師範として、更に国指定重要無形文化財『組踊』の伝承者としても多くのリスペクトを浴びる。
ヨーロッパから南米まで世界各国での公演をはじめ、立川志の輔や森山良子、スピッツ、MONGOL800、HY等とのポップスアーティストとの競演、ビートルズのカバーアルバムへの参加。琉球古典音楽・島うたというフィールドを越えた活動で沖縄音楽界を支える一人と言っても過言ではない

真境名 由佳子(Yukako  Majikina)琉球舞踊 真踊流二代目
1981年 真踊流入門 
2011年 琉球舞踊保存会伝承者認証 
2013年 沖縄タイムス芸術選賞奨励賞受賞
2018年 文化庁芸術祭舞踊部門新人賞
2020年 国立劇場沖縄主催第9回創作舞踊大賞奨励賞 
真踊流所属舞踊家とし、国立劇場おきなわ企画公演や沖縄タイムス社主催の伝統芸能公演などに参加。また2009年国立劇場「おきなわの今そしてこれから」4年連続出演や2013年沖縄芸能マグネットコンテンツ「シップオブザ琉球」エジンバラ公演参加。
2016年より自身の芸能活動開始。
2018年には、真境名由佳子第2回独演会「舞心」を二十五世観世左近記念観世能楽堂で行う。
琉球舞踊からみる沖縄の伝統文化と沖縄人の美学を後世に伝えたいと思います。

渡辺 えり代(Eriyo  Watanabe)
香研究家・香研究会IRI代表・日本薬科大学特命講師
レスリー大学・大学院で芸術療法を学び、修士号取得。10年間の海外生活と51か国への旅の経験を通して、世界のお香を研究し、聞香会、香スペシャリスト養成講座、香りを使った企業研修、国際会議における英語の講演・ワークショップを行っている。
独自に考案した祥香®と熟香®を国内外で広める活動に力を入れ、特に古代の叡智の記憶を宿す古代蓮を使って発酵・熟成させて創作する熟香®ロータスの注文創作は好評。今後、海外での活動をさらに広げていくのが夢。


撮影協力:城間びんがた工房
〒903-0825 沖縄県那覇市首里山川町1丁目113
TEL:098-885-9761

Person
よなは徹・真境名由佳子
琉球古典芸能伝承者 よなは徹さん/沖縄県北谷町に生まれた、琉球古典音楽・島うた界における斬新な歌者。数多くの賞を受賞した琉球古典音楽の師範として、更に国指定重要無形文化財「組踊」の伝承者として活躍する。 真境名由佳子さん/琉球舞踊真踊流二代目。2018 年文化庁芸術祭舞踊部門新人賞、2020 年国立劇場沖縄主催第 9 回創作舞踊大賞奨励賞受賞。